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大豆田とわ子第5話~松田龍平の神回 [小説と映画]

※ 以下敬称略します。
松田龍平が 父親よりも優れた才能を発揮している。
この役は 彼じゃなきゃできなかった
松田優作が 遺作となる『ブラックレイン』でようやく
ショーケンという目の上のたんこぶを超越した。
ジーパン刑事以来 ショーケンのやることなすことを
越えなければいけないというような生真面目というか
パラノイアに陥っていた松田優作は
『探偵物語』という いい作品においても
『傷だらけの天使』を越えられないジレンマを懐き
新宿のゴールデン街で 無茶な喧嘩や暴れ方をしていた。

さて。
今回の『大豆田とわ子』は 中盤で小津安二郎の
リバースショットになる。少ない台詞で
とわ子にとって最もショックな事が明るみになる。
そう かごめのことだ。
ディレクターも頑張っていた。撮影部も照明部も
ローアングルでなく 松田龍平と松たか子の視線が
交わらすことができない そんな
微妙な空気をとても美しくショットとして
描き切っていた。 
ほめ過ぎかもしれないが 小津作品に匹敵する。
おめでとう! こういう劇的なシーンを言葉少なに
画だけでせつない空間を2次元世界で描き
3次元の我々に伝えきるということは 
とても大切な映画監督の仕事だ。
そして小津はそれだけをした。だから黒澤明より
日本を代表する映画監督であるといえるのだ。

 セリーヌの『夜の果ての旅』という小説の前篇は
こう締め括られる。
『人生とは何だ? その答えは 身を切るようなせつなさを
 愛と呼ぶことだ。 愚かだといえばいい。だが
 僕は 何度でも言う。
 人生の意味は 身を切るようなせつなさ だ』
この小説を私は3年前インフルエンザで亡くなった
里亮弘から薦められて私は幸運にも20歳で読んだ。
彼はシネフィルであったが 小説もよく読んでいた。
ヴォネガットとセリーヌ、そして未だ誰も注目していなかった
『ガンダム』のブレイクスルーを早々と教えてくれた。
彼が今ここにいないことは とてもせつない。
だが 彼のような人間が この嘘くさい騒動で
世間が意気消沈している世界など体験しなくてよかったかもしれない。
  人生とは そういうものだな 里!

 身を切るようなせつなさを 
真夜中のメリーゴーランドに乗って
あなたは知るだろう。
それはとてもたいせつな感情教育だ。
宮澤賢治の童話たちに 人々は救われるが
それは 身を切るようなせつなさを
賢治さんがしっかりと
伝える言霊を操る天才だったからだ。

第5話には とてつもなく厭な奴が出てくる。
救いようの無い悪党かもしれない。
坂元裕二ワールドだから どこまで真底悪党だかは
分らない。それは来週以降にわかる。

 市川実日子にとって 代表作になるだろうね 
この作品。
彼女らしさを坂元脚本は最上級に引出しているし
彼女も丁寧に演じている。
ズボラで純粋な人間の貴さなんて
なかなか描かれないし 
演じられる機会があるものじゃない。
車寅次郎みたいなもんだが 女性だしね 
モテモテで困る女だから
寅さんと同じだとは 誰も思えないよ。
でも 坂元さんの真意はそこだと私は思うんですよね。

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