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上から読んでも下から読んでもTENET [映画 ]

クリストファー・ノーラン監督作品を私は
『インセプション』以来2作品目である。
『インセプション』は ハリウッドの監督なのに
ソ連のタルコフスキー監督の『鏡』への激しいオマージュをしながら
ハリウッド作品らしい謎めきつつも結局謎解きミステリー作品として
そつなく熟す腕前に感心したけれど 『鏡』の持つ人類への大切な
手紙は 継承されることなく あくまでも画面的な 美学的な継承であった。

 『TENET』はラテン語で書かれた古代ローマの回文の一部である。
意味は【農夫のアレポ氏馬鋤曳いて仕事する】の一部分。
この意味内容から何を解読するかは 御随意に。
映画としては 2時間40分上映時間中 最後の40分の未来人との戦争が
逆回転(結果が先で原因が後→爆発が先で着弾が後)される時間と空間の中で
現代人は必死になって地球上での時間の流れ、原因があって結果へ向かうに従いつつ
未来人の裏を欠く綿密な作戦を実行していく。
そのシーンを観ているとタルコフスキーの『ストーカー』への賛辞が
この映画に込められている事に驚きつつ お蔭で睡魔に襲われる。
『鏡』同様 『ストーカー』という映画も過去へのタイムスリップを描くSF映画なのに
全くといって躍動感とは無縁で 長い長い長い移動撮影が連続し何事も起こらずに
謎めいた台詞の応酬だけが虚しく音楽のように響き渡る あの虚無と睡魔に
屈服したように 観客は 美と言う存在を目と耳で触る体験をもたらされる。
ノーラン監督もそれを目指そうとするが ハリウッドは メイクマネー上
そんなこたぁ許しませんよ。
『ストーカー』という映画の凄さなんぞだいたい世界で理解できる観客なんて
ほんの一握りしかいないのだ。ハリウッド映画はメイクマネーが至上使命だ。
ほんの一握りの人間がユウレイカ!と叫んでビーナスの足の裏を触る体験をしても
ハリウッドじゃあ それだけじゃあ 負けなんだ。
だから あれやこれや 謎解きが 散りばめられているから
モノ好きな人々は何度もリピートして『TENET』を観るので 
大ヒットするというハリウッドのマーケティング戦略だ。
案の定モノ好きな人々は コロナのお蔭で何度も観直している。

 私はといえば 全く別の読み物目当てで買った『ムー!10月号』で
この映画の謎解きをしているので じゃあ観ようと思った次第だから
都市伝説好きには ねぇムー!民こっち向いてぇ♪という反射反応が起こる。
未来から来たジョン・タイターなんぞひっぱりだして解説しているから
へぇ懐かしいジョン・タイターかぁ なるほど。実際映画ではタイターは出てこないけどさ
未来人がタイムマシンで過去に忍び込み 未来に起きることを回避すべく・・・
というようなターミネーターのような善意と悪意が明確ではない。
この映画の未来人は「もうカッタルイから早々に人類破滅しちゃう」という意志を表明する。
ゲッ!そりゃねーだろう。と私は苦笑いして観ていた。そのわりに主人公たちは
必死で闘うんで 偉いやっちゃ!とハリウッド型ヒーローたちに微笑み返しして微睡む。

 逆回転映像というのは8㎜カメラだとシャッター回転がまさに逆回転して今が一番下に来るように
撮影され順行の回転で映写すれば 結果たる未来が先に上映される。
たとえば蕎麦を食っている人間ではなく蕎麦を器に向かって吐き出しているように上映される。
35㎜カメラでも同じだが今はビデオだし ビデオだと編集時に逆回転映像を合成する。
ビデオだと定義上左から右へ流れるのが順行で我々が体験している時間がそこにある。
だからこのTENETという上から読んでも下から読んでも 左から読んでも右から読んでもが
必要だったとも言える。
クリストファー・ノーランは 時間は幻想である という物理学理論に基づいて
この映画のシナリオを書いている。アインシュタインは 
時間とは全ての次元へプラスアルファされる
つまり 1次元プラス時間次元 3次元プラス時間次元という風に。
だから物理学者は現在我々が体験しているのを4次元と呼ぶ。
各次元ごとに時間の概念は異なるからだ。
2次元的に存在するが読み出せば3次元になりうる漫画や小説は時間を未来から描ける。
映画も2次元プラス時間次元の3次元として同様だが
漫画や小説と違って その逆を自由に観賞するには 漫画や小説よりちょっぴり手間がかかる。
とはいえビデオで観ればまぁ 似たようなものだ。だが 漫画や小説よりも遥かに
映画というのは 我々の4次元に似ていて脳内における錯覚の度合いが違う。
そして 
今 我々は5次元に移行する人々とこの4次元に留まる人々に
分れようとしているのだそうだ。マスクをしていない人を糾弾するような奴隷でいることの
気安さがお好きな人々は4次元に留まる。
人それぞれの自由意志でパラレルワールドの世界、地球へ
つまりこの映画にも散々出てくるタイムライン(世界線)を選択できる。
地球史上最大のショウがまもなく開催されるそうです。心してご自分の自由意志を明確にして
御選択ください。
さて。
上記のような物理学の事を思いめぐらすのが お好きな方々には1800円払っても損は無い。
だが そんなしちめんどくさいことを考えるのは大嫌いだと言う方は たとえば
寝不足を解消するために映画館で爆睡をお望みなら ネットカフェよりコスパで
上映時間の2時間40分に1800円の価値を見出すことが可能だ。
シネコンの座席は現在コロナで一つ置き。マスクを目スクにして爆睡できますよ。
冒頭から陰惨で催眠効果は抜群。とはいえこの冒頭を忘れると結末の意味が推測できない。
結末はありますが エターナルリターンですから 観た途端推測が始まるように
ノーランは作っています。もう一度観るようにリピ催眠仕込んでるかも。
♪ ヤーレンノーランノーランハイハイ ニシン来たかとぉカモメに問えばぁ♪

 主演女優のエリザベス・デビッキは身長191㎝でロングサイズだと宇宙人に見える。
頭と顔が小さすぎる そのわりに手足が長すぎて 美しいけど人間離れしている。
とはいえ 母親の愛の凄味を優雅に演じて素晴らしい。私は当初シャラポワが
女優に転向したのかと思って観ていた。
そして私がこの映画でベストショットとして賞賛するのは
悪役を演じるシェークスピア役者のケネス・ブラナーがクルーザーから死体として落下するショット。
一度回転しかけてクルーザーの欄干に腰の辺りを打って海中へ落下する。
カット割りはされていなかったと思う。たしかワンカットかツーカット。
もちろんブラナー本人ではなく彼に似た体形のボディダブルのスタントマンショットだが
もしかするとスタントマンショットとして映画史上に残るかもしれない。

準主役としてインドの往年の美人スターたるディンプル・カパディアが 久しぶりにハリウッド映画で復活して
美人なだけではない達者な演技を老年に達して見事に披露している。
映画の持つ残酷な【忘却装置】が
こうして抜け抜けと美しさへの記憶回復機能として振る舞うこともあるのだ。~逆回転したのかもしれない! 
と プロの映画批評家なら指摘してほしいものだ。
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