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思考の賜物 [美術]

梅原龍三郎画伯が 師事した オーギュスト・ルノワールから
『絵画は 手で描くのではない。目で描くのだ』と再三言われたという。
戦中 小説を書く事を拒否した志賀直哉は
その梅原のアトリエに入りびたり、絵筆をとった。
後年 梅原は 友人にこう言ったという。
「志賀の野郎が絵描きにならんでくれて 助かったぜ」と。
梅原が 焦ったのは志賀の「見る力、見抜く力」だった。
でなければ あのような小説は逆に書けないということでもある。

過日、NHKで岡本太郎の伝記ドラマが放映されていたが
驚いたのは あの岡本の著作が 殆ど 淑子さんの聞き書きだったということだ。
岡本太郎の絵画は 明らかに思考の賜物として衝撃的であるにも関わらず
その衝撃性を支えた思考の構築物、つまりクリエィティブ戦略は
恋人であり 実際上の妻であり、太郎が自分の絵画を売らない主義の画家であったことから
その著作権と作品の散逸を防ぐ為の 養女だった淑子さんの筆による
著作物という形で存在していたのだった。
一平とかの子の激しく互いを支え合う芸術家カップルの遺伝子は
こうして別の物として継続されていたのには 却ってほのぼのと心を寛がせてくれる
何かがあった。

さて。目という五官器官は 一番脳に密接な器官である。養老猛先生だったかな・・・
「目は脳の突起物みたいなものだ」という解剖学的な アングルで語っていたのを
読んだ覚えがある。
絵画にしろ美術は 概ね 思考を積み重ねた氷山の一角が 作品という形で
表現されて 他者の脳に 思考を呼び覚ます力があるものを
私は 「私にとって 傑作だ!」と叫ぶことにしている。
だからといって 「なんだこれは!と顔を背けさせるような 不快感という感情を
恐れない表現が 芸術なんだ」という岡本太郎のフレームワークを
額面通りになぞ受け取りたくはないのだ。
確かに 不快感という感情すら恐れないというのは 素晴らしい。
寧ろ 俺は不快感をインプレスしたいぐらいだというからには
その生涯、その生活が 普通の人々が 社会通念と呼んで 依拠しているが
そのくせ 本質的な仕組みなど全く理解できていない曖昧な思考のようなモノでしかない
社会通念とやらとは 一切合切 交際を自ら断たねばならない。
その辺は 太郎さんは そういう両親の元で育ったのだから さほど違和感もなかっただろうが
淑子さんのは方は 想像を絶するような精神的葛藤の連続だったはずだ。
私は 「ありうべき家族」とか「ありうべき仕合せ」という曖昧な思考のようなモノたる
そういった通念に懐疑的ではあるが 体質的には結局それらをスプリングボードにする
感性は持ち合わせてはいない。その自分の感性を 私は決して「勇気がない」などと
卑下するつもりは無い。そこまで 岡本太郎&淑子に 無理して擦り寄るのは
逆に彼らから遠ざかる手段になるだろうとすら思う。
勿論彼らも お互い世間と戦っていた時節には 彼らに無理しても擦り寄ってくる
いわゆるエピゴーネンの方を表面的には 歓迎していたかもしれないが 腹では
顔を顰めていたかもしれない。・・・・芸術家とは 概ねそういうものだ。
まぁこういったような嗜好を私は持ち合わせたのは 『エセー』ばかり読んでいたり
高校時代 『親切な物理』という変なネーミングの参考書(名著だそうだ)を
愉しんだことが関係していると思う。 親切なというネーミングに反して
チャート式のような多色刷りでもなく、物理なのに妙に飄々とした文章が
ダラダラと書かれていたのが へそ曲がりの私の性分には感情的に頗る愉快が先立ったからだろう。
こんなことを顧みると 広告クリエィティブというものが思考の賜物であるのに
感情にどう作用するかを突き詰める作業に他ならなかったのだから
人生というのは 自分で判断しきれないものだ、とつくづく思い知る。
脇道と思っていた経路が やはり 本道だったりするのかもしれない。

北斎漫画を模写し その芋版を古美術商に持ち込んで 遊蕩費を賄おうとした
岡本一平は 脇道として歩んだ社会批評漫画を描き それを脇道と思っていた。
だからこそ 妻のかの子には 小説家という本道を歩ませようとした。
そのプレッシャーはやがて 息子の太郎に やや八つ当たり気味に及ぶ。
しかし 太郎は「俺は画家なんかになりたくはなかった」と哭き、
「一流の画家、一流の芸術家って一体何なのよ」と太郎の恋人を追い詰める。
岡本太郎の絵画は あの線とフォルムが 『無根拠な自信』に支えられて
躊躇いなく画布を切り拓くから 爆発だ!と我々にインプレスすることができるのだが
その『無根拠な自信』は 父・一平の遺伝子無くして在りえないのだ。
人生とは そいういものだ。


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